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浦和地方裁判所 平成7年(行ウ)5号 判決

原告

甲野花子(仮名)

被告

埼玉県総務部公文書センター所長

藤井稔

右訴訟代理人弁護士

飯塚肇

右被告指定代理人

菅井敬二

荻原謙

尾花仁

安達哲也

渡辺孝夫

主文

一  被告が平成七年一月二四日付でした、嵐山町長関根昭二が埼玉県知事に提出した意見書の一部非公開決定処分を取り消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  次の各処分を取り消す。

1  被告が、平成七年一月二四日付でした行政情報(嵐山町長関根昭二が平成六年一二月二一日、埼玉県知事に対して提出した意見書)の一部非公開決定処分

2  被告が、平成七年一月二四日付でした行政情報(埼玉県知事が平成三年九月一七日にした都市計画法に基づく開発許可にかかり、株式会社コリンズカントリークラブが提出した右開発許可申請書に添附したゴルフ場造成の資金計画書)の非公開決定処分

3  被告が、平成七年七月二一日付でした行政情報(林地開発行為の許可について(コリンズカントリークラブ)(平成三年九月一七日決裁)のうち資金計画書)の非公開決定処分

4  被告が、平成七年七月二一日付でした行政情報(造成事業申出書(昭和六三年一月十三日地域政策課収受)(コリンズカントリークラブ)の添付書類のうちの別紙記載部分)の非公開決定処分

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が埼玉県行政情報公開条例(以下「本件条例」という。)五条に基づき、被告に対し、訴外株式会社コリンズカントリークラブ(以下「コリンズカントリークラブ」という。)が埼玉県(以下「県」という。)に提出した資料等の公開を請求したところ、被告が一部非公開処分をしたため、原告が右処分の取消しを請求した事案である。

本件条例六条一項には、実施機関が公開しないことができる行政情報が定められているところ、その一号及び二号の規定は、左記のとおりである。

一号 個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げるものを除く。

イ  法令又は条例(以下「法令等」という。)の規定により、何人でも閲覧することができる情報

ロ  公表を目的として作成し、又は入手した情報

ハ  法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に作成し、又は入手した情報で、公開することが公益上必要であると認められるもの

二号 法人その他の団体に属する情報又は事業を営む個人に関する情報で明らかに当該事業に専属すると認められる情報であって、公開することにより当該法人等に著しい不利益を与えることが明らかであるもの(人の生命、身体又は財産の安全を守るため公開することが必要であると認められる情報を除く。)

二  争いのない事実及び前提的事実(争いある事実は、括孤内に認定の証拠を掲記する。)

1  当事者

(一) 原告は埼玉県に住所を有する者である。

(二) 被告は、本件条例の実施機関から本件条例の施行に関する事務の委任を受けた行政庁である。

2  原告の情報公開請求

(一) 原告は、平成七年一月一〇日、本件条例五条に基づき、以下の文書に記載されている行政情報の公開を請求した。

(1) 平成六年一二月二一日付け嵐山町長の埼玉県知事に対する意見書(嵐発第一二八七三号)(以下「本件意見書」という。)

(2) コリンズカントリークラブの開発許可申請書に添付された資金計画書(平成三年九月一七日開発許可)

(二) 原告は、平成七年七月七日、本件条例五条に基づき、以下の文書に記載されている行政情報の公開を請求した。

(1) 平成三年九月一七日に開発許可されたコリンズカントリークラブ開発許可申請書に添付された資力信用に関する文書

(2) コリンズカントリークラブの昭和六三年九月二六日立地承認に関わる「ゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱に基づく造成事業申出書添付書類」である別紙2(資金計画)、同3(会社概要)

3  被告の一部非公開処分

(一) 被告は、平成七年一月二四日、原告の右2(一)の公開請求に対し次の処分をした。

(1) 嵐山町長関根昭二が埼玉県知事に対して提出した意見書の一都非公開決定処分(以下「本件第一非公開決定処分」という。)

(2) 埼玉県知事が平成三年九月一七日にした都市計画法に基づく開発許可にかかり、コリンズカントリークラブが都市計画法二九条の規定に基づく開発許可申請の際に提出した許可申請書の添付書類であるゴルフ場造成の資金計画の非公開決定処分(以下「本件第二非公開決定処分」という。)

(二) 被告は、平成七年七月二一日、原告の右2(二)の公開請求に対し次の処分をした。

(1) 「林地開発許可について(コリンズカントリークラブ)(平成三年九月一七日決裁)のうち資金計画書」の非公開決定処分(以下「本件第三非公開決定処分」という。)

(2) 「造成事業申出書(昭和六三年一月十三日地域政策課収受)(コリンズカントリークラブ)」の添付書類のうちの別紙記載部分の非公開決定処分(以下「本件第四非公開決定処分」といい、本件第一ないし第四非公開決定処分を合わせて「本件各非公開決定処分」という。)

4  本件各非公開情報

(一) 本件第一非公開決定処分の対象である意見書について、被告が非公開としたのは、「取引内容及び財務状況」について記載された部分であり、右非公開部分には、コリンズカントリークラブと地域との協定事項及び同社が締結した契約の各履行状況に関する事項並びに同社に関し嵐山町長が埼玉県知事に要望する事項が記載されている。

(二) 本件第二非公開決定処分の対象である資金計画書は、都市計画法二九条の規定により提出された許可申請書の添付書類である。

右資金計画書には、コリンズカントリークラブのゴルフ場建設にかかわる収支計画及び資金計画が記載されている。

(三) 本件第三非公開決定処分の対象である資金計画書は、森林法一〇条の二の規定に基づく開発行為の許可処分の審査のため、「森林法に基づく林地開発許可申請の手引」(埼玉県農林部林務課作成)で示された様式に従って作成されたものである。

(四)(1) 本件第四非公開決定処分の対象である資金計画、残高証明書、会社概要及び添付書類は、コリンズカントリークラブが埼玉県知事に対し、立地承認にかかる事前協議の資料として、「ゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱」に示す書式に従って提出したものである。

(2) 右資金計画には、収支とその内訳(用地費、造成費、建築費、防災工事費等の年度別額並びに自己資金及び借入金の年度別金額)が記載されている。

また、同処分の対象となった残高証明書には、預金の種類、金額及び金融機関名が記載されている。

(3) 会社概要のうち、会社の損益状況の欄には、営業利益の額、経常利益の額及び税引前利益の額が記載されている。また、同処分の対象となった会社概要のうちの主たる取引金融機関の欄には、取引金融機関名が記載されている。

(4) 納税証書には、コリンズカントリークラブの法人事業税及び法人都民税の額並びにその納付状況が記載されている。

(5) 確定申告書には、コリンズカントリークラブの所得金額、税額等が記載されている。

(6) 決算報告書のうち、損益計算書、損失金処理計算書には、コリンズカントリークラブの損益及び損失金処理の状況が、残高証明書には同社の取引金融機関名並びに預金種目及び残高が記載されている。

三  争点

1  被告の主張

原告から公開の請求があった各行政情報のうち、被告が非公開とした行政情報は、次のとおり、本件条例六条一項一号、同項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当するものであり、本件各非公開決定処分は適法である。

(一) 本件第一非公開決定処分について

本件第一非公開決定処分の対象である各行政情報は、コリンズカントリークラブの財務計画及び財務状況に関する事項であって、作成者が嵐山町長であることも合わせて考慮すれば、これが公開された場合には、コリンズカントリークラブの信用を著しく失わせ、事後の金融機関、建設業者、地権者らとの取引を困難にし、さらにはゴルフ場開発事業の遂行に重大な支障を生じさせる具体的危険がある。

したがって、右各行政情報は、公開することによりコリンズカントークラブに著しい不利益を与えることが明らかであり、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(二) 本件第二非公開決定処分について

(1) 本件第二非公開決定処分の対象である収支計画中には、収入欄に自己資金、借入金等の内訳が、支出欄に、用地費、工事費(さらに、防災工事費、整地工事費、建築工事費等に細分化されている。)等の内訳が記載されており、資金計画中には、収入及び支出の年次計画が記載されている。このように右各行政情報は、コリンズカントリークラブの財務計画及び財務状況に関する事項であって、企業の営業上の秘密に関するものである。このような事項は、企業にとっては、外部、特に競争会社等に絶対に知られたくないものであり、企業は通常、内部情報として厳重に管理している。

これらの情報が明らかにされると、コリンズカントリークラブの資金調達力や経営戦略が明らかとなり、同業他社との競争上の地位が害され、あるいは事業運営に支障が生じる。

(2) 右各行政情報のうち、事業費の総額や各工事費額が明らかにされると、その多寡という観点からゴルフ場の格付けや評価が行われ、ゴルフ場オープン後の会員募集やゴルフ場経営に不利益を生じさせるおそれがある。

(3) 右各行政情報のうち、用地費額が明らかになると、用地費総額と開発面積との関係から、ゴルフ場用地の平均買収予定価格を推測することが可能となる。その場合、右情報が地権者との間の用地買収交渉の駆け引きに利用され、用地取得が困難となり、コリンズカントリークラブのゴルフ場造成事業の運営が阻害されるおそれがある。また、第三者がより高い価格で買収を行うなどして、用地取得を妨害するおそれもある。

(4) したがって、これらの行政情報は、公開することによりコリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであり、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(三) 本件第三非公開決定処分について

(1) 本件第三非公開決定処分の対象である資金計画書には、林地開発(ゴルフ場建設)事業に要する経費、資金の調達方法及び資金計画が記載されており、事業に要する経費の項には、用地費、工事費(さらに、防災工事費、整地工事費、建築工事費等に細分化されている。)等の内訳が、資金の調達方法の項には、資金総額、資金の調達方法の種類及びその金額が記載されており、また、右資金計画中には収入(自己資金、借入金の区別がある。)及び収支の年次計画が記載されている。このように右各行政情報は、企業の取引内容及び財務計画に関する事項であって、企業の営業上の秘密に属する事項である。このような事項は、企業にとっては、外部、特に競争会社等に絶対知られたくないものであり、企業は通常、内部情報として厳重に管理している。

したがって、被告がこれを公開した場合には、コリンズカントリークラブの営業上の秘密を明らかにすることとなり、同社に不測の損害を与えることになる。

(2) 右各行政情報のうち、資金総額、資金の調達方法の種類、金額、収支計画、自己資金、借入金等の内訳、事業費の内訳、年度別の資金繰り、支出費などが公開されると、コリンズカントリークラブの資金調達力や経営戦略が明らかとなるので、同業他社との競争上の地位が害され、あるいは事業運営に支障が生じることとなる。

(3) 右各行政情報のうち、事業費の総額や各工事費額が明らかにされると、総事業費や各工事費の多寡という観点からゴルフ場の格付けや評価が行われ、ゴルフ場オープン後のコリンズカントリークラブの会員募集やゴルフ場経営に不利益を生じさせるおそれがある。

(4) 右各行政情報のうち、用地費額が明らかにされると、用地費総額と開発面積との関係から、ゴルフ場の平均買収予定価格を推測することが可能になり、その結果、地権者との間の用地買収交渉の駆け引きに利用されて用地取得が困難となって、コリンズカントリークラブのゴルフ場造成事業の運営が阻害されるおそれがある。また、第三者がより高い価額で買収を行うなどして、用地取得を妨害するおそれも生じる。

(5) したがって、これらの行政情報は、公開することによりコリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであり、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(四) 本件第四非公開決定処分について

(1) 本件第四非公開決定処分の対象である資金計画及び残高証明書のうち、右資金計画の非公開理由は、前記(三)資金計画書の非公開理由と同様である。

右残高証明書は、コリンズカントリークラブの企業上の秘密に属する財務状況(預金の種類及び金額)及び営業上の秘密に属する取引内容(取引金融機関及び預金取引の内容)を記載したものであるから、これを公開した場合には、同社の企業上の秘密を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右残高証明書は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(2) 会社概要のうち、会社の損益状況及び主たる取引金融機関は、コリンズカントリークラブの企業上の秘密に属する財務状況(営業利益等の額)及び営業秘密に属する取引内容(取引先金融機関)を記載したものである。そこで、これらを公開した場合には同社の企業上の秘密等を明らかにすることとなり、同杜に箸しい不利益を与える。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(3) 納税証明書は、コリンズカントリークラブの企業上の秘密に属する財務状況(税額及びその納付状況)を記載したものであり、これらを公開した場合には同社の企業上の秘密を明らかにし、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(4) 株主名簿は、コリンズカントリークラブの株主名(本件では法人名)、その住所、持株数、株式取得年月日等が記載されている。

当該法人のコリンズカントリークラブの抹式の保有の有無、保有している場合の持株数等は、当該法人の財産状況の具体的な内容であり、当該法人にとっては、財産上の秘密に属するものである。さらに、株式の保有は、単なる財産の保有ということに止まらず、資本又は取引上の提携関係や企業の支配関係を背景になされることが多く、これらの情報が公開されれば、同法人がコリンズカントリークラブと提携関係や支配関係を有している場合には、その安定的な関係の維持が困難になるおそれが生じる。

なお、コリンズカントリークラブの株主たる法人は、当該名簿を自ら作成、提出したものではないから、行政情報公開制度によりこれが公開されることを予期しているものではない。

したがって、右株主名簿を公開すると、コリンズカントリークラブの株主たる法人に著しい不利益を与えることが明らかであり、右各行政情報は本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(5) 役員履歴書は、コリンズカントリークラブの役員の生年月日、最終学歴、職歴が記載されており、これらは特定の個人が識別され、又は識別されうる個人に関する情報であって、これらを公開した場合には個人のプライバシーが侵害されるおそれがある。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項一号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(6) 確定申告書は、コリンズカントリークラブの企業上の秘密に属する税務状況(所得金額、税額等)を記載したものであり、これを公開した場合には同社の企業上の秘密を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(7) 決算報告書のうち、損益計算書、損失金処理計算書及び残高証明書は、コリンズカントリークラブの企業上の秘密に属する財務状況(損益状況、預金残高等)及び営業上の秘密に属する取引内容(取引金融機関及び預金取引の内容)を記載したものであり、これらを公開した場合には、同社の企業上の秘密等を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(8) 決算報告書中、預貯金等の内訳書のうちの金融機関名並びに仮払金(前渡金)の内訳書、買掛金(未払金・未払費用)の内訳書及び仮受金(前受金・預り金)の内訳書のうちの相手方は、コリンズカントリークラブの営業上の秘密に属する取引内容(預金、借入その他の取引の相手方)に関するものであることから、これらを公開した場合には同社の営業上の秘密を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(9) 決算報告書中、借入金及び支払利子の内訳書のうちの借入先及びその所在地並びに期中の支払利子額は、コリンズカントリークラブの営業上の秘密に関する財務状況(期中の支払利子額)及び営業上の秘密に属する取引内容(借入先及び利子額)に関するものであり、これらを公開した場合には、同社の企業上の秘密等を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(10) 前記各行政情報のうち、残高証明書(預金の種類及び金額)、会社概要のうちの会社の損益状況、決算報告書の一部(損益計算書(販売費及び一般管理費の内訳書を含む)、損失金処理計算書、借入金及び支払利子の内訳書のうちの期中の支払利子額)は、具体的には、同社の預金の種類及び金額、営業利益及び税引前利益の額、損益の内訳(販売費及び一般管理費の内訳を含む)、損失金処理の内容、借入金に対する期中の支払利子額などが記載されたものであるから、これらはコリンズカントリークラブの企業財務上の秘密に属する情報であって、企業にとっては、みだりに外部に知られたくないものであり、企業の事業活動の自由を保障するためには、これらの企業の利益は尊重、保護されなければならない。

これらが公開されると、同社の収益や損失の状況、資金力などが明らかにされ、第三者が同社の財務体質や経営状況を分析することが可能となる。第三者によって同社の恣意的な経営分析が行われ、公表された場合には、同社の社会的評価が不当に低下し、株主や取引先等に無用の混乱と誤解を招き、ひいては同社の事業活動に著しい支障を生じることとなる。

また、損益計算書のうちには、販売費及び一般管理費の内訳等、企業の営業、管理上のノウハウにかかわる事項が含まれており、これらが公開されると、これらのノウハウが外部に流出することになり、コリンズカントリークラブの同業他社との競争上の地位が著しく害され、同社に著しい不利益を与える。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(11) 右各行政情報のうち、納税証明書及び確定申告書は、コリンズカントリークラブの財務状況に関する事項に深くかかわる情報であって、同社の損益の状況を反映したものであり、また、逆にこれを知ることにより同社の経営状況を推知することが可能となる。

これらの行政情報は、公開されると、第三者によって恣意的な経営分析や同社の偏った評価がなされ、同社の事業活動が阻害されるおそれが生じ、同社に著しい不利益を与えることが明らかである。

したがって、右各行政情報は、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

(12) 残高証明書(取引金融機関及び預金取引の内容)、会社概要のうちの主たる取引金融機関、決算報告書の一部(預貯金等の内訳書のうちの金融機関名、仮払金(前払金)の内訳書のうちの相手方、買掛金(未払金・未払費用)の内訳書のうちの相手方、仮受金(前受金・預り金)の内訳書のうちの相手方、借入金及び支払利子の内訳書のうちの借入先及びその所在地)についての各行政情報は、コリンズカントリークラブの取引先及び取引内容に関する事項の情報を記載したものであるから、コリンズカントリークラブの営業上の秘密に属する情報である。取引先や取引内容は、企業にとって重要な価値ある情報であり、企業は通常、内部情報として厳重に管理しているものである。競争社会における企業活動の自由を保障するためには、当然これらの秘密は保護されなければならないものである。

これらが公開された場合、コリンズカントリークラブとその取引先の営業上の秘密が第三者に知られるところとなり、安定的に築かれてきた同社と取引先との信頼関係が損なわれるおそれがある。とりわけ、取引先が金融機関である場合には、通常、預金取引をはじめとして種々の取引関係があることから、当該取引先との信頼関係が損なわれることによる不利益は大きい。

さらに、これらが公開されることによって当該取引関係を知った競争会社等が、有利な条件を示し取引に介入するなどして、コリンズカントリークラブからその取引先を奪うおそれが生じる。また、取引の相手方にとっても、競争会社等がコリンズカントリークラブとの取引に介入するなどの危険にさらされることとなる。

したがって、これらが公開された場合には、コリンズカントリークラブと取引先との取引関係の安定が失われ、コリンズカントリークラブの競争上の地位が著しく害されることが明らかであり、本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当する。

2  原告の反論

(一) 行政情報の非公開と公益性との関係

行政情報は、情報が公開される場合の公益の確保や公開に伴う弊害等と非公開とされる場合のそれとを比較衡量して、総合的にどちらがより埼玉県行政の公正適切な公務遂行に当たるかを検討し、前者が優越する場合には公開されなければならない。

本件各行政情報は、次のとおり、公益性の高い情報であるので、公開しないことができる行政情報には該当しない。

(1) 本件各行政情報は、コリンズカントリークラブに開発行為を完遂できる資力信用があるとした埼玉県知事の判断に瑕疵があったことを明白にしうるものであり、極めて公益性の高い情報である。本件各行政情報の公開によって、コリンズカントリークラブの開発行為に関する事前協議、開発許可審査の手続の一端を示すことができ、立地条件の是非、開発許可処分の瑕疵を判断できるから、本件各行政情報は、公益に影響の大きいものである。

(2) 本件各行政情報は、嵐山町国土利用計画の変更にかかわる重要な行政情報であり、これを公開することは嵐山町の公益に大きく寄与する。

(3) 本件各資金計画書の内容は、嵐山町総合振興計画という町の長期構想を策定するに当たって、極めて公共性の高い情報である。

(4) 行政情報が非公開とされる場合は、非公開によって保護される利益は、真に保護に値するものでなければならない。しかし、本件各非公開決定処分は、埼玉県知事の不公正な行為の隠蔽や、コリンズカントリークラブの違法又は不当な利益を守ることになるから、本件各行政情報の非公開は公益に反する。

(5) 仮に、本件第一非公開決定処分の対象となった意見書を公開することによりコリンズカントリークラブに不利益を与えるとしても、右意見書の公共性に鑑み、右情報を非公開とするのは被告の裁量権を逸脱するものである。

(二) 虚偽文書と非公開の是非

虚偽の内容が記載されている文書を非公開とすることは公益に反し、本件条例一条で定める目的である「県政の公正な執行と県民の信頼の確保を図ると共に、県民の県政参加を推進し、もって地方自治の本旨に即して県政の発展に寄与すること」に著しく反する。

したがって、虚偽の内容が記載されている行政情報は、公開されるべきである。

コリンズカントリークラブのゴルフ場造成工事の進捗率は工事終了予定日である平成六年一二月三〇日から一年経過後においても〇・三四二パーセントであること、同社がゴルフ場造成地内の賃借地の賃料の支払いの猶予を求めて延滞していること、ゴルフ場造成地内の国有地の払下げ、町有地の賃貸借契約締結が未了であること等、現在のコリンズカントリークラブの実態に基づけば、ゴルフ場開発許可申請当時同社が造成事業を完遂する資力がないにもかかわらず、開発許可審査において資力信用があると判断されて開発が許可されたものと考えられるのであって、本件第二ないし第四非公開決定処分の対象となった資金計画書及び資金計画には、虚偽の内容が記載されている可能性が高い。

したがって、右各行政情報は公開されるべきである。

(三) コリンズカントリークラブの実態と同社の不利益の不存在

コリンズカントリークラブは、平成七年六月に嵐山町内に所在していた事務所を取り壊し、また、ゴルフ場計画地内の国有地の払下げ、町有地の賃貸借契約締結も未了である。さらに、コリンズカントリークラブは平成六年度の特別土地保有税を滞納しており、ゴルフ場計画地内の賃借地の賃料の支払も、平成六年度より凍結されている。現在、コリンズカントリークラブのゴルフ場造成工事は全く行われておらず、会社が存在していないに等しい。コリンズカントリークラブの現在の資金状態からしても、同社がゴルフ場造成事業を行うことはあり得ず、本件にかかわるすべての行政情報を公開することで、同社が金融機関、建設業者、地権者との健全なる取引を行っていくことが困難となり、又は、他社との競争における不利益を被るということはあり得ない。本件各行政情報が公開されることによってコリンズカントリークラブが被る不利益は、違法又は不当な法人である事実を保護されないという不利益にすぎない。

(四) 本件第一非公開決定処分について

(1) 嵐山町長関根昭二が埼玉県知事に提出した意見書は、原告が嵐山町長に対し提出するように要請したものであり、嵐山町住民である原告は、嵐山町長より右意見書の全文を入手していた。

(2) 本件第一非公開決定処分で非公開とされた部分の記載内容である「地域との協定の一部不履行、賃借料支払の凍結」の事実は、コリンズカントリークラブのゴルフ場造成について関心のある住民には公知の事実である。

(3) したがって、右非公開情報の公開により、コリンズカントリークラブの利益が害されるということはない。

(五) 本件第二非公開決定処分について

右処分の対象である資金計画書は、様式も極めて概略的なものであり、これらが公開されたとしても、到底コリンズカントリークラブの資金調達力や経営戦略を知ることはできず、同業他社との競争上の地位が害されることもなく、同社の事業運営に支障が生じることはない。

また、ゴルフ場造成にかかる事業単価、施工費及び総事業費は、造成にかかる地形、面積だけでなく、その造成程度、建物等各種設備の整備如何に大きく左右されるものであり、同業他社がコリンズカントリークラブのゴルフ場についての概括的な施工費及び総事業費を知ったとしても、コリンズカントリークラブに不利益を生じさせるおそれはない。

(六) 本件第三非公開決定処分について

右処分の対象である資金計画書は、右(五)と同様の理由により、公開されたとしても、コリンズカントリークラブの事業運営に支障が生じることはないし、同社に不利益が生じるおそれもない。

(七) 本件第四非公開処分について

(1) 本件第四非公開決定処分の対象となった文書に記載されている行政情報は、項目自体が極めて概括的であること等から、コリンズカントリークラブの同業他社の参考とはなり得ない。

(2) 本件立地承認にかかる残高証明書を公開しても、極めて流動的で、事業者の経済活動にとって相対的な、しかも法律上公開が義務づけられている預金残高の、過去の一定時点のものが公開されるに過ぎないから、コリンズカントリークラブに不利益を与えることが明らかであるということはできない。

また、決算期における残高は、貸借対照表その他の計算書類にとりまとめられ、株主総会の承認、公告、株主及び債権者の閲覧と写しの交付が法律上義務づけられており、公開することによりコリンズカントリークラブに不利益を与えることが明らかな情報であるということはできない。

さらに、ゴルフ場造成にかかる事業単価、施工費及び総事業費は、造成にかかる地形、面積だけでなく、その造成程度、建物等各種設備の整備如何に大きく左右されるものであり、同業他社がコリンズカントリークラブのゴルフ場についての概括的な施工費及び総事業費を知ったとしても、コリンズカントリークラブに不利益を生じさせるおそれはない。

(3) コリンズカントリークラブの登記簿等には、額面株式一株の金額、発行する株式の総数及び発行済株式の総数が記載されており、また、雑誌「財界展望」には、同社の株主についての記事が掲載されている。

したがって、同社の株主名簿を公開することにより、同社の株主である法人に著しい不利益を与えることが明らかということはできない。

(4) コリンズカントリークラブの役員履歴書に記載された役員の生年月日、最終学歴、職歴に関する情報は、法人又は事業活動を行う個人の事業活動の範囲内の情報であり、公開によって個人のプライバシーを侵害するものとはいえない。

(5) 決算報告書中、仮払金等の内訳書等の相手方及び借入先については、雑誌「財界展望」に、地上げ担当として株式会社勤労者財形センター、徳信商事、アルキ公園設計事務所の名が掲げられており、これら三者は、納税証明書等のうちの仮払金の相手方であることが容易に判断できる。

したがって、右行政情報は、一般に入手できる雑誌から察することのできる情報であって、公開することによりコリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであるということはできない。

(6) 納税証明書、確定申告書、会社概要のうちの会社の損益状況、決算報告書のうちの損益計算書、損失金処理計算書及び残高証明書、決算報告書中、預貯金等の内訳書のうちの金融機関名並びに仮払金(前渡金)の内訳書、買掛金(未払金、未払費用)の内訳書及び仮受金(前受金・預り金)の内訳書のうちの相手方、借入金及び支払利子の内訳書のうちの借入先及びその所在地並びに期中の支払利子額等(以下「納税証明書等」という。)は、いずれも商法二八一条、二八二条により、取締役が定時総会に提出して株主の承認を求めることが要求されており、株主及び会社債権者は閲覧できる情報である。

したがって、納税証明書等に記載されている行政情報を公開したとしても、コリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであるということはできない。

(7) 納税証明書等の各行政情報は、昭和六〇年一二月一〇日から昭和六一年八月三一日までのものであり、これらが公開されたとしても、コリンズカントリークラブの経営状況を推知することはできず、同社に不利益が生じることはない。

(8) 用地費額について

コリンズカントリークラブはすでに立地承認を得、用地取得を終了し、開発許可を受けているので、他社の用地取得の妨害はあり得ない。

また、本件ゴルフ場についての土地買収は、国土利用計画法に基づく指導が行われているため、不当に価額がつり上げられることはない。

(八) コリンズカントリークラブによるゴルフ場造成計画には、防災面において甚だしい欠陥があることが指摘されている。造成工事が強行されれば、工事にも手抜きがされ、周辺住民の健康又は身体の安全に影響を及ぼす被害が発生する蓋然性が高い。また、仮にコリンズカントリークラブがゴルフ場造成工事に着手した場合、開発許可処分が無効とされ、造成工事が中断される可能性があり、その場合には、人の生命、身体又は財産に対する危険、損害の発生が起こりうる。

したがって、本件各行政情報は、本件条例六条一項二号括孤書きに定める、人の生命、身体または財産の安全を守るため公開することが必要であると認められる情報に該当し、公開しないことができる行政情報であるということはできない。

3  原告の反論に対する被告の再反論

(一) 本件条例六条一項二号の規定により公開しないことができる行政情報であるか否かの判断は、当該情報の内容・性質や、それが法人等の事業活動に占める位置づけ等を考慮し、それを公開した場合に法人等の事業活動に著しい不利益を与えるものと一般的に認められるか否かにより判断されるべきである。

すなわち、当該法人等の性格(私企業性、公共性など)、規模(資本金、組織人員等)や事業活動の内容(社会に供給している財やサービスの内容など)を考慮しつつ、当該情報はどのような内容・性質のものか(例えば、営業、財産、金融、芸術、労働者管理等の経営又は技術上の秘密又はノウハウを含むものなのかなど)及びそれは法人等の事業活動においていかなる位置を占めるかを総合的な視点に立って考察し、社会通念上、それを公開した場合には、当該法人等の事業活動に著しい不利益を与えるおそれがあると一般的・客観的に認められるか否かによって、公開・非公開の判断がなされるべきであり、また、それをもって足りると解すべきである。したがって、個々の法人等の経営状況如何によって公開すべきか否かの判断基準が左右されるべきものでもない。

原告が主張する公益は、県政の公正な執行という一般的な公益に過ぎないものであり、本件各行政情報を公開すべき理由とはならない。

(二) コリンズカントリークラブのゴルフ場建設工事は、当初の予定どおりには進捗していないが、コリンズカントリークラブは、埼玉県知事に対し、開発許可事項変更届出書を提出し、ゴルフ場造成事業を継続、遂行する意思を示しているのであって、同社がゴルフ場造成、経営の事業を行うことはあり得ないということはできない。

コリンズカントリークラブは、現在も法人として存続し、なおゴルフ場造成事業を継続、遂行する意思を示しているのであって、同社の事業活動が保護されるべきものであることは明らかである。

したがって、同社の事業活動における利益は、現在もなお保護されなければならないものであって、同社の資金計画等を公開しても、同社には取引上の不私益や競争上の不利益は生じ得ないということはできない。

(三) 株主総会において株主の承認が求められ、又は株主及び会社債権者が閲覧できるのは、納税証明書等のうちの一部の文書にすぎず(商法二八三条一項、二八二条二項)、また、閲覧し得るのは株主及び会社債権者に限られており、法は、利害関係のない一般人がこれを閲覧することを認めていない。すなわち、法はその限度で会社の利益を保護している。

したがって、株主総会において承認が求められ、又は株主及び会社債権者が閲覧できることを根拠として、情報公開制度によりこれら情報を一般に公開することは、これら情報につき閲覧を請求し得る者の範囲を限定した右のような法の趣旨を没却するものであって、当該法人等に著しい不利益を与えることが明らかである。

(四) 本件第四非公開決定処分の対象である納税証明書等が原告主張の時期に関する情報であるとしても、コリンズカントリークラブにとってはそれ自体が企業上の秘密に属するものとして、なお保護されるべきものである。のみならず、企業の事業活動は継続性、連続性があることから、第三者によって当時の同社の財務体質や経営状況について恣意的な分析がなされ、その結果が公表されれば、同社の現在の財務状況や経営状況と結びつけて考えられ、同社の社会的評価が不当に低下するおそれが生じる。また、当時から係属している取引関係に競争会社等が介入するなどして、その取引先を奪うおそれが生じる。

したがって、右各行政情報を公開した場合は、コリンズカントリークラブの現在の事業活動に著しい不利益を与えるおそれがある。

(五) 本件第四非公開決定処分の対象である用地費額については、コリンズカントリークラブが取得した用地は、自己所有地のみではなく、借地が相当程度含まれており、同社が将来これらの借地を買収することはあり得るから、右用地費額が公開されたとしても、コリンズカントリークラブに著しい不利益を与えないということはできない。

第三  争点に対する判断

一  本件第一非公開決定処分について

1  本件第一非公開決定処分の対象となった意見書について、被告が非公開とした行政情報は、「取引内容及び財務状況」について記載された部分であり、右非公開部分には、コリンズカントリークラブと地域との協定事項及び同社が締結した契約の各履行状況に関する事項並びに同社に関し嵐山町長が埼玉県知事に要望する事項が記載されていることは、前記のとおりである。

2  地域との協定事項及び同社が締結した契約の各履行状況に関する事項について

(一) 先ず、コリンズカントリークラブと地域との協定事項について検討すると、〔証拠略〕によれば、コリンズカントリークラブは、嵐山町との間で、同社が特定の町道の改良舗装費用を負担する旨の基本協定を締結したことが、また〔証拠略〕によれば、コリンズカントリークラブは、嵐山町遠山地区の住民との間で、集会場の及び神社の改築、水路の整備、未舗装道路の補修等を行う旨の協定を締結し、志賀一区、平沢一区の各住民、遠山土地改良組合、大沼水利組合との間でも類似の協定を締結していることが認められる。そこで、右認定の事実によれば、非公開情報である協定事項の履行状況とは、要するに右各協定における事項の履行状況であるといいうるところ、各協定の相手方あるいはその関係者は多数に上るから、その履行状況は嵐山町住民の間においては、ほぼ周知の事実であるということができる。

(二) 次に、コリンズカントリークラブが地域で締結した契約の履行状況について検討すると、〔証拠略〕によれば、コリンズカントリークラブは平成六年一月二九日付けで、同社が造成を予定しているゴルフ場用地の賃貸人に対し、五年以内かつゴルフ場が完成するまでの間地代の支払いの猶予を申し入れており、同社の取締役は地主組合の臨時会議で右条件に関して説明をし、同社と地主組合との間で交渉がもたれていることが認められ、また、〔証拠略〕によれば、嵐山町内のコリンズカントリークラブのゴルフ場造成予定地のうち、コリンズカントリークラブ以外の民間所有の土地は四八万九〇二六平方メートルであり、総面積の六八パーセント余りを占め、同土地の筆数は二六〇筆、右土地所有者の人数は八一名であることが認められる。右認定の事実によれば、コリンズカントリークラブが地域で締結した契約の履行状況とは、同社がゴルフ場用地として賃借した契約のそれを意味し、右契約の相手方あるいは関係者は多数に上り、契約面積も広大であるから、その履行状況は嵐山町住民の間においては、ほぼ周知の事実であるということができる。

(三) 右(一)及び(二)の事実によれば、コリンズカントリークラブの取引金融機関その他の取引先等も、嵐山町の住民でなくとも、コリンズカントリークラブと地域との協定事項及び同社が締結した契約の各履行状況を容易に知ることができあるいはこれを既に知っていると推認することができるから、右非公開情報である協定事項及び契約の履行状況に関する事項を公開することによりコリンズカントリークラブに著しい不利益を与えると認めることはできない。

3  嵐山町長がコリンズカントリークラブに関し埼玉県知事に要望する事項について検討すると、甲第三号証によれば、本件意見書の公開された部分には、コリンズカントリークラブの現在の事業進捗率(〇・三四二パーセント)を考えると工期の大幅な延長が余儀なくなるものと思われる旨及びコリンズカントリークラブの地域との協定事項及び同社が締結した契約の各履行状況に問題がある旨記載されており、これに続き、いわば結論として、「つきましては、株式会社コリンズカントリークラブに対する」との文言と、「を、早急かつ厳密に実施していただきますよう、お願い申し上げます。」との文言の間に右要望事項が記載され、字数も七文字程度であることが認められる。

そうすると、右要望事項の箇所には、コリンズカントリークラブに対する何らかの指導ないしは同社の資力信用状況に関連する調査の類が極めて簡潔に記載されているものと推認されるところ、本件意見書にはコリンズカントリークラブの工事の進捗状況が記載され、前記のように同社と地域との協定事項及び同社が締結した契約の各履行状況が周知であり、あるいはコリンズカントリークラブの取引金融機関その他の取引先等も右履行状況を容易に知り得ることができ、嵐山町長が知事に対し何らかの要望をしたことまでは公開されているのであるから、同町長が右状況を前提として県知事に対し行った右のような趣旨の簡潔な要望の内容が公開されたとしても、これによってコリンズカントリークラブの信用が影響を受け、ゴルフ場の建設に支障を生じ、同社に著しい不利益を与えるものと認めることはできない。

4  よって、本件意見書の取引内容及び財務状況について記載された部分を非公開とした被告の本件第一非公開決定処分は、本件条例六条一項二号の解釈適用を誤った違法があり、取消しを免れえない。

二  本件第二非公開決定処分について

1  本件第二非公開決定処分の対象となった資金計画書は、前記のようにコリンズカントリークラブが平成三年七月三一日に都市計画法二九条の規定によりゴルフ場の開発許可申請をした際に添付した書類であるところ、右資金計画書には同社のゴルフ場建設に関わる収支計画及び資金計画が記載されていることは、当該文書の趣旨より明らかである。

コリンズカントリークラブが右申請を行った当時の都市計画法三三条一項によれば、都市計画法上の開発許可申請に際して資金計画書の提出は義務づけられていなかったから、右資金計画書は、コリンズカントリークラブが任意に作成し、提出したものに当たる。

ところで、〔証拠略〕によれば、埼玉県住宅都市部土地行政課監修、社団法人埼玉県建築士事務所協会発行の都市計画法開発許可申請の実務の手引(改訂版)には、別紙様式第三として資金計画書の書式が添付されており、右書式によれば、収支計画及び年度別資金計画を記載し、さらに収支計画中の収入欄には、処分収入、補助負担金を、支出欄には用地費、工事費(さらにこの内訳として、整地工事費、道路工事費、排水施設工事費、給水施設工事費等に細分化されている。)、附帯工事費、事務費、借入金利息等を記載し、また、年度別資金計画においては、支出欄に事業費(さらにこの内訳として、用地費、工事費、附帯工事費、事務費、借入金利息等に細分化されている。)、借入償還金等の年度別計画を、収入欄には、自己資金、借入金、処分収入、補助負担金等の年度別計画を記入する形式となっていることが認められる。そうすると、本件第二非公開決定処分の対象となった資金計画書も、右別紙様式第三の資金計画書の書式に添って作成、提出され、右のような各項目について記載がされているものと推認することができる。

2  一般に、法人等の特定の事業に関する収支計画及び資金計画は、当該事業に関する財務計画であって、法人等は内部情報として管理しており、外部に公表されることを欲しないものであり、それが公開されると当該法人等の資金調達力や経営戦略が明らかとなる情報であり、したがって、これら情報が公開されると当該法人等の競争上の地位を害し、法人等に著しい不利益を与えるものであるということができる。

また、前認定のとおり、右資金計画書には、用地費や各種工事費、自己資金、借入金等の年度別計画が記載されていると推認されるから、右資金計画書が公開された場合には、これによって事業費の総額や各工事費の総額が明らかとなり、さらに総事業費や各工事費からゴルフ場に投入した資金の額を推定することが可能となり、その結果当該ゴルフ場の格付けや会員募集において不利益が生じうると考えられる。そして、用地費が明らかとなれば、これを開発面積と対照することにより平均買収予定価格を推定することが可能となり、そうすると、右価格の情報が地権者との用地買収交渉の駆け引きに利用され、あるいは第三者に用地買収の妨害に利用されるおそれがあることは否定できない。

したがって、本件第二非公開決定処分の対象となった資金計画書に記載されている行政情報を公開すると、コリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであると認めることができる。

3  ところで、原告は、本件第二非公開決定処分の対象となった資金計画書は、様式も極めて概略的であり、これらが公開されたとしても、コリンズカントリークラブの資金調達力や経営戦略を知ることができないと主張する。

しかし、資金計画書の項目は右に認定のとおりであって、資金計画書には同社の用地費や各種工事費の額、自己資金や借入金の年度別計画が記載されていると推認されるから、資金計画書の記載内容はコリンズカントリークラブの資金調達力や経営戦略等の一端を知りうる情報であるということができる。

また、原告は、ゴルフ場造成にかかる事業単価、施工費及び総事業費は、造成にかかる地形、面積だけでなく、その造成程度、建物等各種設備の整備如何に左右され、概括的な施工費や総工事費が明らかとなったとしても、コリンズカントリークラブに不利益を与えるおそれはないと主張する。

しかし、資金計画書の項目程度であっても、工事費等が明らかになると、コリンズカントリークラブのゴルフ場の建設及び経営に著しい不利益が生じうることは、前認定のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。

さらに、原告は、コリンズカントリークラブは、用地取得を終了しているから、用地取得の妨害はあり得ず、また、本件ゴルフ場造成予定地についての土地買収は、国上利用計画法に基づく指導が行われているため、不当に価額がつり上げられるおそれはないと主張する。

しかしながら、右認定のとおり、嵐山町内の本件ゴルフ場造成予定地の三分の二を超える部分が賃借地であり、同社が将来これらの借地を買収する可能性は否定できないから、用地取得の妨害はあり得ないと断定することができない。また、国土利用計画法に基づく行政指導が行われているから不当に価額がつり上げられるおそれはないとの点については、本件全証拠によっても、これを認めるに足りる証拠はない。

4  よって、被告が右資金計画書の情報を本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当するとして、非公開とした処分には、本件条例の解釈適用を誤った違法はない。

三  本件第三非公開決定処分について

1  本件第三非公開決定処分の対象となった文書である資金計画書は、前記のとおり森林法一〇条の二の規定に基づく開発行為許可申請に際し、「森林法に基づく林地開発許可申請の手引」で示された様式に従って作成されたものである。

そして、〔証拠略〕によれば、埼玉県農林部林務課作成の「森林法に基づく林地開発許可申請の手引」に示されている林地開発許可申請の際に提出する資金計画書の様式(様式4号)によれば、記載事項は(1)事業に要する経費と(2)資金の調達方法に区分され、さらに事業に要する経費の「項目」欄には、用地費土木工事費、防災施設工事費、建築工事費、諸経費、予備費等の区分を行い、また、資金の調達方法の「種類」欄には、自己資金、補助金、借入金等の区分を行うこととされていることが認められる。そうすると、本件第三非公開決定処分の対象となった文書である資金計画書は右書式に基づいて作成、提出されたものであるから、資金計画書には、経費として右に類する用地費、各種工事費を区分し、また資金の調達方法として自己資金及び借入金等を区分して資金計画が記載されているものと推認することができる。

2  右各行政情報は、企業の取引内容及び財務計画に関する事項であるから、右二2に説示したように当該法人等の資金調達力、経営戦略等を明らかにする情報として、一般に当該法人等が内部情報として、管理している性質のものであり、したがって、右各行政情報が公開されると、当該法人等に著しい不利益を与えるものということができる。

また、右各行政情報のうち、事業費の総額や各種工事費額が明らかにされると、総事業費や各工事費の多寡という観点からゴルフ場の格付けや会員募集において不利益を生じるおそれがあり、用地費が明らかとなると、ゴルフ場の平均買収予定価格を推定することが可能となり、右価格が地権者との用地買収交渉の駆け引きに利用され、また第三者が介入する等して用地取得が困難になりうることは、前記二2で説示したとおりである。

したがって、これらの各行政情報は、公開することによりコリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかである。

3  よって、右資金計画書に記載された各行政情報は本件条例六条一項二号に定める公開しないことができる行政情報に該当するとした被告の処分は、適法である。

四  本件第四非公開決定処分について

1  本件第四非公開決定処分の対象となった行政情報の記載されている文書は、前記のようにコリンズカントリークラブが埼玉県知事に対し、立地承認の事前資料として、「ゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱」に示す書式に従って提出したものである。

そして、〔証拠略〕によれば、埼玉県は、「ゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱」(昭和六〇年一一月一日決裁)の第7において、事業者が造成事業を実施しようとするときは、同指導要綱添付の様式1の造成事業申出書を市町村長を経由して知事に提出するものと定め、右様式1の別紙2として資金計画の書式及びその添付書類を、別紙3として会社概要の書式及びその添付書類を定めていることが認められる。そこで、本件第四非公開決定処分の対象となった行政情報が記載されている文書は、右要綱に添付されている様式1の書式に基づき作成されたコリンズカントリークラブの造成事業申出書のうち、別紙2資金計画及び別紙3会社概要のうちの会社の損益状況及び主たる取引金融機関に該当する部分及びその各添付書類であると認めることができる。

右乙第六号証の一によれば、造成事業申出書別紙2資金計画には、支出として、用地費、造成費、建築費、防災工事費(区域内)、防災工事費(区域外)、公共・公益施設費、その他の項目ごとに、また、収入欄においては、自己資金、銀行等借入金、その他借入金の項目ごとに、各年度の計画を百万円単位で記入する書式となっており、添付書類として預金残高証明書、貸付け又は融資をする旨を証する書類を添付すべきことが、また、別紙3会社概要については、「3会社の損益状況」欄において、営業利益の額、経常利益の額、税引前利益の額を百万円単位で、また「6主たる取引金融機関」欄に主たる取引金融機関を記入する書式となっており、添付図書として、商業登記簿の写し等貸借対照表、損益計算書、営業報告書、納税証明書を添付すべきことが認められる。

2(一)  資金計画及び残高証明書

前記のように本件第四非公開決定処分の対象となった資金計画には、収支とその内訳(用地費、造成費、建築費、防災工事費等の年度別額並びに自己資金及び借入金の年度別金額)が記載されており、また同処分の対象となった残高証明書には、預金の種類、金額及び金融機関名が記載されている。

右資金計画に記載されている行政情報が、公開することによりコリンズカントリークラブに著しい不利益を与える情報であることについては、前記二及び三の資金計画について摘示したところと同様である。

次に、右残高証明書に記載されている行政情報は、コリンズカントリークラブの金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であるということができる。したがって、これらの行政情報を公開した場合には、同社の企業上の秘密を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与えることが明らかであると認められる。

ところで、原告は、右残高証明書を公開しても、極めて流動的で、事業者の経済活動にとって相対的な、しかも法律上公開が義務づけられている預金残高の過去の一定時点のものが公開されるにすぎず、また、決算期における残高は、貸借対照表その他の計算書類にとりまとめられ、株主総会の承認、公告、株主及び債権者の閲覧と写しの交付が法律上義務づけられており、公開することによりコリンズカントリークラブに不利益を与えることが明らかな情報ということはできない旨主張する。

しかし、右残高証明書に記載されている行政情報が過去の一定時点の預金残高を証明するものであるとしても、同時点での預金残高等の情報は、コリンズカントリークラブにとっては、それ自体、財務上及び取引上の秘密に属するものということができ、さらに、右預金残高等の情報は同社の現在の財務状況や取引関係に関連し、これを公開すれば同社に著しい不利益を与えるおそれがあるものということができる。

また、商法上、株式会社において株主総会の承認の対象とされている貸借対照表、損益計算書等の計算書類(商法二八三条一項)、株主及び会社の債権者が閲覧、謄写することのできる右書類及び付属明細書(同法二八二条、二八一条)は、いずれも融資を受けている金融機関名及び各金融機関毎の預金残高まで細分化して記載することは要求されておらず(株式会社の貸借対照表、損益計算害、営業報告書及び附属明細書に関する規則参照)、また、その閲覧等をすることができるのは当該会社の株主及び債権者に限定されるから、本件残高証明書の内容が一般に公開されているということはできない。したがって、商法上の計算書類の閲覧等の制度を理由とする原告の右主張は、失当であって、採用することができない。

(二)  会社概要のうち、会社の損益状況及び主たる取引金融機関

前記のとおり、本件第四非公開決定処分の対象となった会社概要のうち、会社の損益状況の欄には営業利益の額、経常利益の額及び税引前利益の額が、また、主たる取引金融機関の欄には取引金融機関名が記載されている。

右各行政情報のうち、営業利益及び経常利益等の額は、コリンズカントリークラブの営業状況及び財産状況を示す指標であって、企業上の秘密に属する性質を有し、また、取引金融機関名は、コリンズカントリークラブの具体的取引関係に属する情報として営業秘密に属する性質を有するということができる。したがって、これらの行政情報を公開した場合には、同社の企業上の秘密等を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与えることが明らかであると認めることができる。

(三)  納税証明書

本件第四非公開決定処分の対象となった納税証明書には、前記のとおりコリンズカントリークラブの法人事業税及び法人都民税の額並びにその納付状況が記載されている。

法人の税金額及びその納付の状況は財務状況に密接な関係を有する事項であり、当該法人の経営状況を推知することが可能となる性質を有する情報といいうる。したがって、これらの行政情報が公開された場合には、同社の企業上の秘密を明らかにすることとなり、第三者によって恣意的な経営分析や同社の偏った評価がなされ、同社の事業活動が租害されるおそれが生じるから、同社に著しい不利益を与えることが明らかであると認めることができる。

もっとも、原告は、右文書に記載されている行政情報は、昭和六一年のコリンズカントリークラブの設立当初の納税額であり、事実上事業の行われていない同社の納税額を公開しても同社に不利益を与えることはないと主張する。しかし、会社設立当初の納税額であっても、これによって同社の経営状況が推知され、第三者によって恣意的な経営分析や同社の偏った評価がなされるおそれがあることに変わりはないから、原告の右主張は採用することができない。

(四)  株主名簿

本件第四非公開決定処分の対象となった株主名簿には、コリンズカントリークラブの株主名、持株数等が記載されていることは、当該文書の性質より明らかである。

一般に、株式の所有関係に関する情報、証券取引所上場企業における大株主のように公表されているものを除き、株主である法人等にとって企業上の秘密、財産上の秘密に属する性質を有するものということができる。

したがって、右株主名簿の情報は、これを公開することによりコリンズカントリークラブの株主である法人等に著しい不利益を生じさせることが明らかな情報であると認められる。

この点、原告は、コリンズカントリークラブの登記簿等には額面株式一株の金額、発行する株式総数及び発行済株式の総数が記載されており、また雑誌「財界展望」に同社の株主についての記事が掲載されているから、株主名簿を公開してもコリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかということはできないと主張する。しかし、右株主名簿には、登記事項ではない株主の名称、持株数等の財産状況に関する事項が記載されていると認められ、また、原告が主張するような記事が掲載されているとしても、右雑誌の記事が真実であるかどうかは明確でないから、仮に原告主張のような記事が掲載されているとしても、そのことから、本件株主名簿に記載されている事項が広く一般的に知られており、これを公開してもコリンズカントリークラブの株主である法人等に著しい不利益を生じさせるおそれがないということはできない。

(五)  役員履歴書

本件第四非公開決定処分の対象となった役員履歴書に、コリンズカントリークラブの役員の生年月日や職歴等の個人的な情報が記載されていることは、当該文書の性質より明らかである。

ところで、本件条例六条一項一号は、個人に関する情報について、そのイないしハの除外事由に当たる場合以外は、「特定の個人が識別され、又は識別され得る情報」を公開しないことができる行政情報として定めている。そうすると、本件役員履歴書は、右のようにコリンズカントリークラブの役員の生年月日や職歴等の個人的な情報が記載されていると認められるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であることが明らかであり、右情報を公開することが公益上必要であるなど右イないしハの除外事由が存在すると認めるに足りる証拠はない。

ちなみに、原告は、コリンズカントリークラブの役員履歴書に記載された事項は法人又は事業活動を行う個人の事業活動の範囲内の情報であり、公開によって個人のプライバシーを侵害するものとはいえないと主張するけれども、本件条例六条一項一号は、右のとおり個人のプライバシーを保護するため、特定の個人が識別され又は識別され得る情報であれば、それだけでこれを公開の対象から除外しているのであるから、原告の右主張は、このような本件条例の規定に反するものであって、採用することができない。

(六)  確定申告書

本件第四非公開決定処分の対象となった確定申告書には、前記のようにコリンズカントリークラブの所得金額、税額等が記載されている。

これらの情報は当該法人等の損益の状況を反映し、財務状況に関する事項に密接な関係がある情報であり、これによって同社の経営状況を推知することが可能となる性質を有する情報であるということができる。したがって、これらの行政情報が公開されると、第三者によって恣意的な経営分折や同社の偏った評価がなされ、同社の事業活動が阻害されるおそれが生じるから、同社に著しい不利益を与えることが明らかであると認められる。

(七)  決算報告書のうち、損益計算書、損失金処理計算書、残高証明書

前記のとおり、本件第四非公開決定処分の対象となった決算報告書のうち、損益計算書及び損失金処理計算書にはコリンズカントリークラブの損益及び損失金処理の状況が、残高証明書には同社の取引金融機関名並びに預金種目及び残高が記載されている。

これらの情報のうち、損益状況及び損失金処理状況は、当該法人等の財産状況及び経営状況を推知することが可能な情報であって、企業上の秘密に属する性質を有し、また、取引金融機関及び預金残高は、当該法人等の具体的な取引内容に関する情報で、営業上の秘密に属する性質を有する情報であるということができる。したがって、右各行政情報は、これを公開することにより、コリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであると認められる。

(八)  決算報告書中、預貯金等の内訳書のうちの金融機関名、並びに仮払金(前渡金)の内訳書、買掛金(未払金・未払費用)の内訳書及び借受金(前受金・預り金)の内訳書のうちの各相手方

本件第四非公開決定処分の対象となった決算報告書のうちの右部分には、取引金融機関名、並びに仮払金、買掛金、借受金の各相手方が記載されていることは、右非公開決定の趣旨より明らかである。

これらの情報は、コリンズカントリークラブの具体的取引の相手方に関する情報であるから、同社営業上の秘密に属する性質を有するものであるということができる。したがって、右各行政情報は、公開することにより、同社の営業上の秘密を明らかにすることとなり、同社に著しい不利益を与えるものであることが明らかであると認められる。

もっとも、原告は、雑誌「財界展望」に、地上げ担当として株式会社勤労者財形センター、徳信商事、アルキ公園設計事務所の名が掲げられており、これら三者が仮払金の相手方であることが容易に判断できるから、右各行政情報のうち、仮払金の相手先は一般に入手できる雑誌から察することのできる情報であって、これを公開しても、コリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることはないと主張する。そして、〔証拠略〕によれば、本件仮払金の相手方は三者であり、取引の内容は買収等の手数料であることが認められる。しかしながら、右雑誌の記事が正確であると断定しうる証拠はなく、また、仮に右記事が事実であるとしても、右記事のみによって右仮払金の相手方が広く一般に知られているということはできず、しかも、〔証拠略〕によれば、右三者に対する手数料額は相当の差があることが認められるから、コリンズカントリークラブにとって、各手数料とその支払の相手方との対応関係も取引上の秘密に属するということができる。したがって、原告の右主張は、採用することができない。

(九)  決算報告書のうち、借入金及び支払利子の内訳書のうちの借入先及びその所在地並びに期中の支払利子額

本件第四非公開決定処分の対象となった決算報告書のうちの右部分に、借入金及び借入先、期中の支払利子額が記載されていることは、右非公開決定の趣旨より明らかである。

これらの情報は、コリンズカントリークラブ及び借入先の営業上の秘密に関するものであり、公開されればコリンズカントリークラブ及び借入先の企業上の秘密を明らかにする性質を有するものということができる。したがって、右各行政情報を公開することにより、コリンズカントリークラブに著しい不利益を与えることが明らかであると認めることができる。

3  以上のとおり、本件第四非公開決定処分の対象となった行政情報につき、これらが本件条例六条一項一号又は二号に定める公開しないことができる行政情報に該当するとして非公開とした被告の処分には、本件条例の解釈適用を誤った違法はない。

五  原告の反論について

1  原告の反論(一)について

本件条例において定められる行政情報公開請求権は、県政の公正な執行と県民の信頼の確保を図るとともに、県民の県政参加を一層促進し、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的とするものと解される(本件条例一条参照)。

もっとも、埼玉県の保有する行政情報は多種多様であるから、中には公開によりかえって行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じるものや、個人のプライバシー、法人等の正当な和益を侵害するおそれがあるものも含まれていることは明らかである。そこで、本件条例は、県の保有する行政情報について、県民に原則として行政情報公開請求権を認め、他方、六条において、公開しないことができる行政情報及び公開しない行政情報を定めることによって、あらかじめ、公開による前記目的の達成と公開による弊害を調整する基準を設定したものと解される。

このように、本件条例においては、文言の公開による県民の県政参加及び県政の発展という公益の確保と、公開による弊害をあらかじめ衡量した上で、公開しないことができる行政情報及び公開しない行政情報を定めており、そして、本件条例六条一項一号及び二号によれば、非公開の理由は、同条同項一号ハの場合(個人に関する情報であるが、公開することが公益上必要であると認められるもの。)を除き、具体的情報の要保護性と公益性の各程度を比較して決定するものとはされていない。したがって、具体的な行政情報公開請求権の存否を判断するに当たっては、当該行政情報が本件条例の定める非公開理由に該当するか否かを判断すれば足りるのであって(ただし、同条一項一号ハの場合を除く。)、それ以上に、個々の行政情報の公益性の程度を考慮して公開、非公開を決定することは許されないものといわなければならない。

したがって、原告の反論(一)の主張は失当であって、採用することができない。

2  原告の反論について

本件各非公開決定処分は、非公開とされた各行政情報が、本件条例六条一項一号または二号に該当するとしてなされたものである。そして、右各号は、個人のプライバシーを保護するため及び法人等の正当な利益を保護するためにあらかじめ特定の行政情報を公開しないことができる旨を定めたものであり、右各号によれば、右非公開情報に当たるかどうかは、当該情報の性質や客観的内容が基準とされていることが明らかである。そこで、公開により個人あるいは法人の右のような利益が侵害されるか否かは、原則として、右各行政情報の内容が虚偽であるか否かにかかわるものではないということができる。もっとも、本件条例六条一項二号の該当性を判断するに当たり、当該行政情報の内容が全くの虚偽であり真実に反することが明らかである場合には、当該情報を公開することによって法人に著しい不利益を与えるとは認められないような場合も想定されないでもなく、このような場合においては、情報公開の是非の判断に内容の虚偽性が影響を及ぼし得ることは否定できない。しかし、本件全証拠によっても、本件各行政情報について、右のような事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の反論(二)の主張は、採用することができない。

3  原告の反論(三)について

原告は、コリンズカントリークラブの造成工事は全く行われておらず、同社の現在の資金状態からして、同社がゴルフ場開発事業を行うことはあり得ず、本件にかかわるすべての行政情報を公開しても、同社が金融機関、建設業者、地権者との健全なる取引を行っていくことが困難となり、他社との競争における不利益を被ることはあり得ないと主張する。

しかし、〔証拠略〕によれば、コリンズカントリークラブは埼玉県知事に対し、開発許可事項変更届出書を提出し、工期を延長して工事を継続する意思を示していることが認められる。本件全証拠を検討してみても、コリンズカントリークラブが実体を伴わない会社であり、今後同社がゴルフ場開発事業を行うことがあり得ないとまで認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の主張は前提の立証を欠くものであって、これを認めることはできない。

4  原告の反論(八)について

原告は、コリンズカントリークラブのゴルフ場造成計画には防災面において甚だしい欠陥があり、したがって、非公開とされた本件各行政情報には、本件条例六条一項二号括孤書きに定める除外事由があると主張するけれども、本件全証拠によっても、右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の反論(八)の主張は、これを採用することはできない。

六  よって、原告の請求は主文の限度で理由があるから右の限度で認容し、その余の部分は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光・裁判官 小島浩 水上周)

別紙

一 別紙2資金計画及び残高証明書

二 別紙3会社概要のうち

1 会社の損益状況

2 主たる取引金融機関先

3 納税証明書

4 株主名簿

5 役員履歴書

6 確定申告書

7 決算報告書のうち、損益計算書、損失金処理計算書及び残高証明書

8 決算報告書中、預貯金等の内訳書のうち金融機関名、並びに仮払金(前渡金)の内訳書、買掛金(未払金、未払費用)の内訳書及び仮受金(前受金、預り金)の内訳書のうちの各相手方

9 決算報告書中、借入金及び支払利子の内訳書のうち、借入先、所在地及び期中の支払利子額

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